原　田　源　次　郎　翁　ノ（ 碑文）

翁氏ハ原田名ハ源次郎俗名ヲ寅吉ト称す弘化二（年四月ヲ以テ南総勝浦町ニ生ル幼ニシテ家運拙ク父）

子離散ノ悲況ニ遭遇シ流離輾轉遂ニ不良ノ徒ニ（交リ卓落ノ侠骨為メニ放縦不羈ノ素行ヲ馴致セリ明治元）

年三月飄然横浜ニ遊ビテ身ヲ船乗業ニ投ジ内外（船舶ノ水夫トナリ次デ五年五月長崎ニ於テ英国人某所有）

船ノ水夫長ニ雇ハレ十年十二月ニ至ル迄終始外（国船ニ乗組ミ技術ノ進歩頗ル観ルベキモノアリシモ飄浪）

ノ生活ハ尚ホ依然タリシト云フ十一年一月工部（省の所有千早丸ニ採用セレルルヤ船長河岡某ノ知遇）

ヲ受ケ十三年七月東京船舶司検所ニ出頭シ同月（三十日小形船々船長ノ試験ニ合格シ同年九月三池鉱山分局所）

有曳船三池丸船長ニ採用セラル翁是ヨリ河岡某（ヲ徳トシ素行ヲ悛メ初テ新生涯ニ入リシト云フ次デ二）

十一年三池炭礦ノ経営三井鉱山会社ニ移リシ後（モ依然トシテ勤続シ更ニ船舶取締専務ニ昇進シ或ハ石炭）

輸送ノ拡張ニ際シ自己ノ創意ヲ以テ西洋形風（帆船ヲ艤装シ或ハ運送船ノ増加ニ伴ヒ船員ノ養成ニ尽瘁シ）

或ハ大牟田川口ノ水路拡張工事ニ当リ適切ナ（ル設計法ヲ案出セシ等功績殆ンド枚挙ニ遑アラズ是ヲ以テ）

翁ノ信用益加ハリ地位亦随テ累進セシモ晩年漸ク（健康ヲ損ジ）四十三年四月罷役ヲ命ゼラレ翌四十四年一

月六日遂ニ不帰ノ客トナリヌ享年実ニ六十有七是ヨリ先キ三井合名会社ハ翁ガ在職ノ功労ヲ多トシ特

ニ金弐千円ヲ賞与セリ蓋シ特典トス翁人トナリ卓落不羈中年新生涯ニ入リシ後ハ翻然トシテ（行）ヲ改メ節

義ヲ重ンジ然諾ヲ尚ビ苟モ非違アルトキハ骨肉ト雖モ仮借スル所ナシ且（特）ニ事業ヲ愛シ自信ニ富（ミ其）作

業ニ対スル注意ハ最モ周到ヲ極メ船舶操縦ノ術ニ至テハ妙ヲ極メ神ニ入リシト云フ聞ク郷人ノ今尚ホ埠

頭ヲ徘徊スルモノ翁ノ英姿ヲ追懐セズンバアラズト況ンヤ親シク翁ノ侠（風）ニ浴シ薫陶ヲ受ケタル知友門

弟ニ於テオヤ爰翁ヲ追慕スル者相謀リ碑ヲ建テ功ヲ録シ以テ無朽ニ伝（ヘン）コトヲ計リ発起者某来

文ヲ予ニ属ス予ヤ翁ノ謦咳ニ接セザリシモ同国ノ因ミアリ豈応セザルヲ得ンヤ雀躍シテ叙ス

　　　　　　　　　　　　　明治四十四年八月　　神作濱吉　　謹撰

（原文は縦書き）

（繁体字の漢字は簡体字に置き換え）

（碑文中（　）内は欠字を昭和１９年刊『大牟田市史』で補った部分）